ワンポイント税務情報

Vol.018

それって「福利厚生費」?


「福利厚生費」は従業員への慰労や生活の充実等のために要する費用で、税務上、一定の要件を満たすことが必要となります。その要件を満たしていない場合、給与として取り扱われる可能性がありますので注意が必要です。

「福利厚生費」に該当するのはどんなもの?

「福利厚生費」には、「法定福利費」と「法定外福利費」があります。「法定福利費」は、社会保険料などの会社負担が義務付けられている費用で、「法定外福利費」は、従業員やその家族のために企業が任意で設ける福利厚生のための費用です。
一般に「福利厚生費」といえば、この法定外福利費を指すことが多く、次のようなものが該当します。




福利厚生費(法定外福利費の例)
◇社宅の提供
◇社内レクリエーション(社員旅行など)

◇食事代の補助、食事の提供(まかない、仕出し弁当の提供等)
◇健康診断・人間ドックの費用
◇通勤費
慶弔見舞金
◇自社商品・サービスの社員割引
◇育児・介護サービス費用の補助  など

税務上、福利厚生費として認められるためには、次の要件を満たす必要があります。

  1. 全従業員が対象であること
  2. 現金や換金性の高いものの支給ではないこと
  3. 社会通念上妥当な金額であること

※福利厚生に関する規程を定め、社内に周知しておくとよいでしょう。

こんなケースはどうなる福利厚生費か、給与か?

(1)従業員への社宅提供や住宅手当等

会社が所有する住宅、または会社が家賃を支払って借り上げた住宅を、従業員に対して社宅・寮として提供する場合、従業員から賃貸料相当額の50%以上を受け取っていれば、残りの会社負担分は福利厚生費になります。従業員の負担割合が50%未満や無償であれば、企業負担分はその従業員への給与として取り扱われます。
(図表1)
従業員が直接契約する賃貸住宅の家賃や住宅ローンなど住宅に関連する費用を補助する目的で支給する「住宅手当」等は、給与として取り扱われます。

(図表1)社宅の家賃の負担割合

(2)社員旅行の費用

従業員の慰安やレクリエーションを目的として行われる社員旅行については、次の要件をいずれも満たしていれば、原則として、その費用は福利厚生費になります。

  1. 4泊5日以内(海外旅行は現地での滞在日数)の旅行であること
  2. 全従業員を対象とした旅行で、参加人数が職場全体の50%以上であること

 旅行先で、一部の従業員のみが参加して会社負担でゴルフコンペを行った場合の費用は給与として取り扱われます。
 なお、取引先の接待、慰安等のための旅行は交際費に該当します。

(3)創業記念品や永年勤続者への報奨

創業記念品の支給、永年勤続者に対する報奨(記念品の支給・旅行や観劇への招待など)の費用は、次の要件をいずれも満たしていれば福利厚生費となります。

【創業記念品の場合】

  1. 支給する記念品が、社会一般的にみて記念品にふさわしいものであること
  2. 記念品の処分見込価額による評価額が10,000円以下(税抜)であること
  3. 一定期間ごとに行う行事で支給するものは、おおむね5年以上の間隔で支給するものであること

【永年勤続者への報奨の場合】

  1. その費用が、その人の勤続年数や地位などに照らして社会一般的にみて妥当な金額以内であること
  2. 勤続年数がおおむね10年以上である人を対象にしていること
  3. 同じ人が2回以上表彰を受ける場合は、おおむね5年の間隔が空いていること

ただし、記念品の支給や旅行・観劇等への招待の費用に代えて、現金や商品券などを支給する場合は、その全額(商品券の場合は券面額)が給与扱いとなります。

(4)従業員の健康診断費用

全従業員を対象にした健康診断を実施する場合、その費用を会社が病院等へ直接支払う、または従業員が費用を立て替え、後日、精算するのであれば、その費用は福利厚生費になります。

ただし、一般的な健康診断を超え、費用が高額となるものは給与として取り扱われます。

従業員の健康診断費用

(5)従業員への食事の支給やまかない費用

従業員に食事を支給(まかない、仕出し弁当の提供等)する場合、次の2つの要件を満たせば福利厚生費となります。(図表2)

  1. 従業員が食事の価額の半分以上を負担していること
  2. 会社負担分が1か月あたり3,500円(税抜)以下であること

 また、上記の要件を満たせば、食事に限定したチケットを配布する場合も福利厚生費になりますが、食事手当として現金支給すると給与となります。

(図表2)従業員への食事の支給やまかない費用

Vol.017

親の税負担を軽減する「特定親族特別控除」が新しくできました


大学生年代の子を持つ親は、子がアルバイト等によって「年収103万円」を超えると自身の所得から扶養控除(「特定扶養控除」)を受けることができませんでした。令和7年度税制改正において、親の税負担軽減のための新しい制度「特定親族特別控除」が創設されました。

※本稿の「年収」とは、年間給与収入のことをいいます。


☆子の年収が「188万円以下」までは親等が所得控除を受けられるしくみ

これまで大学生年代(19歳以上23歳未満)の子を持つ親等(扶養する側)は、子(扶養される側)のアルバイト等による年収(給与収入のみ)が103万円以下であれば親等の所得から扶養控除(「特定扶養控除」)として63万円の控除を受けることができました。一方で、子は親等の税負担が増えないように「年収103万円以下」に抑えるために働く時間を調整することも多く、学生アルバイトを雇用する事業者は人材確保に苦慮することも多くありました。

そうした状況を税制面から改善するため、令和7年度税制改正で「特定扶養控除」の子の年収要件が引き上げられたとともに、「特定親族特別控除」が創設されました。大学生年代の子が収入を増やしても、親等の税負担が軽減されるような仕組みとなっています。

親の税負担を軽減する「特定親族特別控除」が新しくできました

改正①「特定親族特別控除」の創設

「特定扶養控除」に加え「特定親族特別控除」が創設され、大学生年代の子の年収が123万円を超えても、150万円以下(合計所得金額85万円以下)であれば、「特定扶養控除」と同額(63万円)の「特定親族特別控除」を親等が受けることができるようになりました。また、子の年収が150万円を超えても、年収188万円以下までは親等が所得控除を受けられます。ただし子の年収の増加につれて控除額が段階的に縮小し、年収188万円を超えると控除がなくなります。(図表1)

「特定扶養控除」「特定親族特別控除」の子の年収要件(合計所得金額用件)、親等の控除額の詳細は図表2のとおりです。

図表1

改正② 「特定親族特別控除」の創設

「特定扶養控除」に加え「特定親族特別控除」が創設され、大学生年代の子の年収が123万円を超えても、150万円以下(合計所得金額85 万円以下)であれば、「特定扶養控除」と同額(63万円)の「特定親族特別控

除」を親等が受けることができるようになりました。また、子の年収が150万円を超えても、年収188万円以下までは親等が所得控除を受けられます。ただし子の年収の増加につれて控除額が段階的に縮小し、年収188万円を超えると控除がなくなります。(図表1)

「特定扶養控除」「特定親族特別控除」の子の年収要件(合計所得金額用件)、親等の控除額の詳細は図表2のとおりです。

改正③ 学生自身の税負担も軽減

アルバイトによる給与収入がある学生は、これまで年収103万円を超えても年収130万円以下であれば、「勤労学生控除」(27万円)を受けることで税負担はありませんでした。令和7年度税制改正において、勤労学生控除の所得要件が年収150万円以下(合計所得金額85万円以下)に引き上げられました。つまり、年収150万円までは、アルバイトをしている学生自身の所得税負担がなく、かつ、親の税負担もこれまでと変わらないということになります。

☆就業調整の緩和に期待学生アルバイト人材が確保しやすく!

これら①~③の改正は、令和7 年分の所得税(年末調整において摘用)、令和8年度分の住民税から適用されます。
今回の改正により、アルバイトをしている学生等が、「年収103万円」を超えて、より多く働けるようになります。そのため、学生アルバイトを雇用する事業者は、柔軟なシフトを組むことができるようになります。

*収入や労働時間が増えることで、学生アルバイト自身の住民税・所得税の負担、社会保険への加入義務が発生する場合があります。

図表2

Vol.016

令和7年度税制改正のポイント
年収160万円まで所得税の課税最低限が引き上げ


令和6年末から大きな話題となっている「年収103万円の壁」の見直し。令和7年度税制改正により、所得税が課税されない範囲(課税最低限)が「103万円」から「160万円」へと見直されることになりました。
※「本稿」の「年収」とは、給与所得者の年間給与収入のことをいいます。

☆一定の要件のもと所得税の課税最低限が「年収103万円」から「160万円」に!

令和6 年分まで、年収103万円以下の給与所得者(会社員、パート、アルバイト等)は、所得税がかかりませんでした。この103万円の課税最低限の根拠は、給与所得控除の最低保障額55万円と基礎控除額48万円の合計です。

本改正で、給与所得控除と基礎控除の金額が見直され、所得税の課税最低限が160万円まで引き上げられました。(図表1)

「103万円が160万円になった。差額の57万円が一律で引き上げられた」と思われがちですが、実は少し複雑です。実際は、給与所得控除の10万円と基礎控除47万円(合計57万円)の引き上げが適用されるのは、年収200万円相当以下の人だけです。

改正内容について詳しく見ていきましょう。

図表1 所得税の課税最低限の引き上げ

図表1 所得税の課税最低限の引き上げ

給与所得控除の最低保障額が65万円に

給与所得者の所得税額の計算(図表2)においては、まず給与収入から給与所得控除を差し引いて「給与所得」を算出します。
給与所得控除額は図表2 給与所得控除の計算式で計算します。年収162万5,000 円以下であれば55万円の給与所得控除(最低保障額)がありましたが、令和7年分以降は、年収190万円以下であればこの最低保障額が10万円アップし65万円になります。なお、年収190万円超の給与所得者については、給与所得控除の最低保障額引き上げによる影響はありません。

「基礎控除」は最大47万円上乗せ

次に、給与所得からさまざまな所得控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除等)を差し引くことで「課税所得」を算出します。本改正では、ほとんどの給与所得者に適用される基礎控除の金額を引き上げる(図表2 令和7年分以降の基礎控除額)ことで、幅広い層で所得税額が軽減されることとなります。

例えば、合計所得金額132万円(年収200万円相当)以下の人については、47万円が上乗せされ、改正前の48万円と合わせて基礎控除額が95万円となります。

一方、合計所得金額132万円超2,350万円以下(年収200 万円相当超2,545 万円相当以下)の人については恒久的に適用される上乗せは10万円となります。(合計58万円)ただし令和7年分・8年分に限り、年収200 万円相当超850万円相当以下の人を含めて税負担を軽減する観点から、合計所得金額に応じて基礎控除額を上乗せする特例が設けられています。なお、合計所得金額2,350万円(年収2,545万円相当)超の給与所得者には、本改正の影響はありません。(年収に応じて基礎控除額が段階的に減少)

☆複雑になった給与計算事務にきちんと対応しよう!

令和7年分・8年分の所得税は、幅広い年収層で2万円から3万円程度の減税となります(図表2 給与収入に応じた減税額(令和7年分・8年分))。その結果、従業員の給与計算事務への影響が見込まれます。

例えば、令和7年分の所得税についてはすでに毎月の給与から源泉徴収を行っていますが、減税分については年末調整で還付することになり年末調整事務が複雑になることが予想されます。また、ほとんどの従業員について、令和8 年分の源泉所得税額が変わることになります。

図表2 給与所得者所得税額算出方法

図表2 給与所得者所得税額算出方法

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